成人のアレルギー

2022年、あの大谷選手が血液検査で卵や小麦が体に合わないことがわかり摂らないようにしているというニュースがありました。
ただそのシーズン中でも小麦のクレープを食べていたとか、2023年のWBCで中日の高橋投手が「大谷さんがすごく卵を食べていた」と証言してました。
「我慢できず食べちゃってるの?」と心配される方もみえるのではないでしょうか。
大谷選手が行った血液検査とは「遅延型」食物アレルギー検査と思われます。
症状が現れるまでに数時間〜数週間以上かかるアレルギーが「遅延型」、すぐ反応が現れるのが「即時型」です。
この遅延型アレルギー検査は専門の病院でできますが検査キットなら最近はネットでも買えます。
反応が出るととりあえずその食材をしばらく食べないよう指導をされます。
ただしこの検査で調べる抗体(IgG)というものは食物のアレルギーでない人にも存在します。
つまりその食物を食べてもアレルギー症状が全くでないことも多く、そうであれば食物の制限をする意味もありません。
それで大谷選手も今は制限をしていないということだと思われます。
日本小児アレルギー学会と日本アレルギー学会では遅延型食物アレルギー検査に対して注意を促す文書をHPに掲載しています。
アレルギーの原因を特定するにはここからさらに専門医による様々な検査(食物負荷試験・皮膚テスト=プリックテスト、スクラッチテスト、皮内テスト、パッチテスト)が必要です。

ここで少し整理しましょう。
即時型・遅延型はアレルギーの「型」を指します。
では即時型と遅延型の違いとは何でしょうか。
即時型(T型)のアレルギー反応は抗体(lgE)が抗原(アレルゲン)と出会うことでヒスタミンなどが放出されてじん麻疹・湿疹・下痢・咳・喘鳴が起きることです。
遅延型(W型)のメカニズムはまだはっきり解明されていないのですが、リンパ球(T細胞)やマクロファージが関係すると言われています。
この遅延型は即時型のアレルギー症状に加えてメンタルの不調・頭痛・めまい・肌荒れ・肩こり・倦怠感・体調不良といったアレルギーとはわかりにくい症状が起きることもあります。
アレルギー検査と言えば通常は即時型アレルギーを指していますが、即時型の検査結果で原因が不明という場合にさらに詳しく調べるのが遅延型の検査という位置関係です。
食物アレルギーとは食物が原因のアレルギーを指し症状には即時型も遅延型もあります。
(※注 アレルギーとは抗原や抗体の反応を指します。原因物質に対する過敏症(乳糖不耐症、小麦のグルテン過敏症、化学物質など)はアレルギーではありません。)

さて日本で最初の花粉症が発見されてから60年経ちましたが厚生労働省HPによりますとこの15年では特に「食物アレルギー」が急増しています。
食物アレルギーは乳児期に発症し年齢ともに消失することが多かったのですが、最近は成人の10人に1人が食物アレルギーを持っているそうです。
原因となる食物(アレルギーの原因物質=抗原)は小児では卵・牛乳・小麦・大豆ですが、成人では甲殻類・魚類・貝類・果物などが多いようです。

大人が食物アレルギーを発症すると、ある日突然じんましんや痒み、下痢、嘔吐や喘鳴、ひどい場合は呼吸困難、意識低下が起きます。 発症したら原因となる食品を避けるしかありません。
食べるだけでなく洗顔せっけん(皮膚)や息を吸う(気道粘膜)のも注意が必要となります。
最近では従来みられなかった食物アレルギーも増加しています。
例えば花粉症の方がリンゴやモモ、大豆、メロンやスイカなどで発症する、またゴム手袋を常用する人がバナナ、アボカド、クリ、キウイなどで発症することがあるのです。
これは花粉やゴムの木のアレルゲンとこれらの果物のアレルゲンのたんぱく質構造が似ているためで、これを「交差反応」と呼びます。
クラゲに刺されたサーファーが納豆アレルギーを起こすことがありますが、これもクラゲ成分と納豆のねばねば成分の交差反応です。



特に食物アレルギーは患者さんが経験から「この食物に対してアレルギーがある」と自己判断してそれを避けることが多いと思いますが交差反応で無警戒な食物からも発症してしまいます。
かといって食物アレルギーの診断は専門医でも難しく、前述のような検査も補助的な役割です。
ですので食物の犯人捜しだけでなく、アレルギーを起こしやすい体質の改善も必要です。
アレルギー体質とはIgE抗体を体内でどんどん作ってしまうのですが遺伝的要素があるためこの点については手がありません。
しかし抗原侵入を少しでも食い止める方法なら現実的です。
本来抗体とは外部から侵入してくる抗原に対し防衛する目的ですから、侵入されやすい場所である皮膚や腸・目・鼻・喉の粘膜に多く存在しています。
こうした最前線の場所に食生活や生活環境などによる負担が増えているのではないでしょうか。

東洋医学の考え方では、皮膚・目・鼻・喉・大腸は「肺」というグループに属します。
腸の粘膜は「脾」というグループです。
漢方薬では肺のバリア機能を高めたり、脾の働きを高めて腸の炎症は鎮め、粘膜を正常にすることができます。

例えば「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」という食物アレルギーの症状がありますが、これは原因となる食物を食べてから運動することで蕁麻疹から始まり全身のアレルギー症状(アナフィラキシー)が誘発されます。
運動がきっかけとなる理由はまだはっきりしていませんが腸粘膜がアレルゲンを通しやすくするためという説があります。
つまり摂取した食物が消化しきらず大きなタンパク質分子がアレルゲンとして腸から吸収されたるため、それが皮膚や粘膜などに到達してアレルギー反応が誘発されるのではないかということです。
ちなみに解熱鎮痛剤(NSAIDs)も食物アレルギーを引き起こす要因になりますが、こちらも腸粘膜の透過性を高めてアレルゲンを侵入しやすくします。
つまり腸管の粘膜がダメージを受けていると食物アレルギーにつながる可能性は高いと考えます。

┃アレルギー体質の方は注意が必要です。
下記に該当する方はなるべく改善しましょう。

●生活習慣が乱れている
当然ですが疲労を持ち越すことで免疫システムに狂いが生じます。

●食生活
砂糖を代謝する時に、ビタミンやミネラルを消費してしまうこと欠乏を招きます。
また砂糖を好むカンジダ菌などの微生物で腸内細菌バランスが崩れると腸粘膜にも悪影響が出てアレルギーを起こしやすくなります。
ジュース類や冷菓、パン、調味料、缶詰に含まれる「果糖ブドウ糖液糖」、「ブドウ糖果糖液糖」など食品添加物も要注意です。

●過度のきれい好き
最近は何かというと「抗菌」で衛生環境も整い、汚れを極端に気にします。
昔の赤ちゃんはなんでも口に入れましたが現代のお母さんはそれを許しません。
感染症が激減したことなどから免疫細胞の主役が交代(Th1細胞からTh2細胞)し、本来攻撃する必要のない食物の成分や花粉にまで過剰に作用するようになったという考え方があります。

●ビタミンD不足
乳幼児の場合では食物アレルギーを発症する数は、生まれた季節によって異なることが報告されています。
食物アレルギーと診断された乳幼児は秋冬(10-12月)生まれが多く、春夏(3-5月)生まれが少ないという報告があります。
海外の研究でも同様の報告があるそうです。
秋冬生まれの乳幼児に食物アレルギーが多いのは、春夏に比べて日照時間が短く、日光を浴びる時間が少ないことによるビタミンDの生成不足も要因の1つと考えられます。
ここで考えられるのが、日照時間とビタミンDとの関係です。
ビタミンDはカルシウムやリンといったミネラルの吸収を増やして骨を強くしたり、血液中のカルシウム濃度を調節したり、過剰な免疫反応を抑制するなどの働きがあります。
食物では、サケ、カツオ、しらす干し、イワシの丸干し、あん肝などほとんどの魚介類、キクラゲや干しシイタケなどのキノコ類、豚や鶏のレバー、鶏やうずらの卵の黄身に多く含まれています。
食物からだけでなく、日光を浴びることでも体内につくられます。
皮膚の近くにあるプロビタミンD3(7−デヒドロコレステロール)が紫外線に当たることでビタミンD3が合成されます。
近年ビタミンD欠乏症と喘息などのアレルギー疾患の発症との関係について研究が盛んに進められています。
なお食事やサプリメントから摂取したビタミンDと比較して、日光を浴びた皮膚で生成されたビタミンDは体内に2〜3倍長く留まります。
皮膚で生成されたプレビタミンD3が完全にビタミンD3に変換されるまでには約8時間かかり、ビタミンD3が真皮の毛細血管床に入るまでにはさらに時間がかかるため、経口摂取と比較して皮膚で生成されたビタミンD3が循環している時間が長くなるのです。
また皮膚で生成されたビタミンD3は全てビタミンD結合タンパク質と結合しますが、食事やサプリメントから摂取されたビタミンD3は約60%がビタミンD結合タンパク質と結合し40%がリポタンパク質結合画分として速やかに除去されてしまいます。

アレルギーと漢方薬

病院ではアレルギーの症状を抑えるものとして抗アレルギー剤を処方されます。
アナフィラキシーの可能性があれば注射(エピペン)があります。
漢方薬はアナフィラキシーには力が及びませんが、アレルギーの症状なら抑えることは可能です。
そして漢方薬のもう一つの長所はアレルギー体質の改善と予防です。
アレルギー体質の方の多くは熱や毒が充満し血が消耗した状態です。
こうした体質を改善できることが一つ。
もう一つは皮膚・目・鼻・喉・大腸(肺)や腸粘膜(脾)のバリア機能を高めることもできます。

腸によくないものとして白砂糖、小麦、白米や、アルコール、カフェイン、食品添加物、抗生物質や鎮痛剤といった医薬品が考えられます。
腸によいものはとしては新鮮で農薬を使用しない野菜、亜麻仁油やえごま油、青魚など。
整腸作用のあるものもよいですがヨーグルトなどはあまりお勧めしません。
腸粘膜の修復を助けるものとしては漢方薬以外に亜鉛や熊笹エキスがあります。
※ご希望の方は直接ご連絡ください。