膀胱炎

尿をためておく膀胱はゴムのような伸縮性がある筋肉の袋です。
厚さ1.5cm程度の膀胱の壁が、尿が満タンになるとびよーんと伸びて1/50の薄さにまでなるそうです。
この特性を利用して膀胱は楽器、水筒、果てはラグビーボールやサッカーボールに利用されてきました。

一般的な膀胱炎(単純性)とは膀胱に大腸菌が侵入して起きます。
侵入してもおしっこで細菌は流されますが、おしっこを我慢しなくてはいけない環境や抵抗力が落ちていると細菌が繁殖し膀胱炎になります。
すると膀胱の粘膜も荒れて過敏になり排尿痛や下腹部痛、残尿感、頻尿、また血尿や濁りが起きます。
膀胱炎が女性に多いのは肛門と尿道口の位置が近い、尿道口から膀胱までの距離が短いという構造から大腸菌が膀胱に入りやすいというのが通説です。
またナプキンやオリモノシート、閉経後の膣内細菌叢の変化も一因と言われます。

膀胱炎を繰り返したり、基礎疾患(前立腺肥大・膀胱結石・糖尿病など)のある方は慢性膀胱炎に移行することがあります。
こちらは痛みは少なく不快感や残尿感がだらだらと長期におよびます。
複数の菌がみられる場合と逆に細菌が検出されない場合があります。

さらに厄介な膀胱炎に「間質性膀胱炎」があります。
膀胱の間質(細胞と細胞の間にある物質)に炎症が長期にわたって生じ、頻尿や残尿感、尿意切迫感、排尿痛などの不快な症状があらわれます。
細菌やウイルスも存在せず、尿検査でも異常はありません。
ハンナ型と言われる「特徴的な糜爛」のある間質性膀胱炎は、厚生労働省の難病指定になっています。
ハンナ病変がないものは最新のガイドラインでは膀胱痛症候群として区別しています。
治療法としては膀胱水圧拡張術(保健収載)、食事療法・薬物療法・膀胱内注入療法などがありますが根本的解決になっていません。

さて漢方薬は膀胱炎というジャンルと相性がよいです。
漢方薬は本来は患者様の状態を見て薬の選択をすることが大切なのですが、膀胱炎は病院に行くのも抵抗がありますし初期ならドラッグストアにある漢方薬を手軽に使用しても結構効果があるものです。
(※もちろん効かない場合は専門家へ相談しましょう。)
漢方薬は尿量を増やし細菌を流すとともに炎症を抑え頻尿や痛みを和らる総合的な効果です。処方によっては血尿も抑えます。
泌尿器科では抗生剤や抗菌剤で原因である細菌を直接叩きます。
細菌の数を減らす点においては抗生物質が効果的ですが、体によくない面があります。
また近年こうした抗生物質に対する大腸菌の耐性化も問題になっています。

慢性膀胱炎・間質性膀胱炎に移行した場合は漢方薬の選択も少し複雑になりますのでご相談が必要となります。
特に間質性膀胱では炎膀胱鏡で患部を見るとハンナ病変に「異常な新生血管の集まり」や「瘢痕」が確認できます。
膀胱痛症候群も異常な血管新生が起きていることが確認されています。
新生血管が増えた膀胱はまるで風船のゴムが劣化してしぼむようにしだいに繊維化して萎縮します。
東洋医学では繊維化・萎縮・瘢痕全てを「お血」と考えますので漢方薬でもお血を解消する対策が必要になります。

西洋医学でも最近はこの新生血管を減らすため「血管内治療」という新しい治療法もあります。
膀胱壁に新生血管ができるとき神経も一緒に増えることで過敏になり尿が少し溜まっただけで痛みが出やすくなることがわかっています。
この方法は同じ新生血管で起きる関節痛で行われています。
また目の疾患でも新生血管が悪さをしています。

最新の「間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン」では漢方薬は「推奨グレード:C1 有効性の根拠は低いが(レベル5)、有効とする報告もある(レベル5)。重大な副作用は少ない。」という評価です。
漢方薬が使用された129例の通院患者の例について記載があり、具体的な処方は竜胆瀉肝湯、猪苓湯、牛車腎気丸、清心連子飲、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、加味逍遥散、補中益気湯、桃核承気湯、安中散でした。
使用目的は膀胱の炎症・口渇・冷え・疲労の改善・便秘の治療・胃腸障害となっていてどちらかというと西洋医学的治療の補助という位置づけのようです。
膀胱炎の原因について西洋医学ではストレス、睡眠不足、過労、体調不良、冷え、気候、便秘、血行障害、排尿習慣、仕事、年齢、更年期、自律神経など様々ではっきり結論が出ていません。
東洋医学では刺激物やアルコールによる熱、慢性のストレスによる気滞、心労(心火)、胃腸機能低下や強い冷え、老化(腎虚)などのパターンから特定して対応する処方を考えていきます。

新生血管

新生血管ができるきっかけはそもそも周辺の血流が悪くなり栄養素が足りなくなるからです。
ちなみに癌細胞も新生血管を作り栄養を摂ろうとします。
この血管は脆くすぐ出血を起こし、さらには並行して神経も生じるので刺激に敏感になります。

漢方症例

50台女性のA子さんは以前から慢性膀胱炎で痛みと頻尿に悩まされていた。
血尿が出るたびに泌尿器科や腎臓内科で抗生物質を処方されていた。
膀胱鏡では異常は確認できない。
口渇があり手足の冷えが強いので夏でも靴下が離せず、胃腸も弱い。
冷えと胃腸虚弱→真武湯+人参湯、血尿に猪苓湯合四物湯を服用していたがはっきりしない。
当店では舌診から気虚+陰虚+お血として漢方薬二種類+生薬処方。
一か月で痛み消失、血尿もでなくなる。半年後再発したが同じ処方ですぐ治癒した。
お血に対応する生薬を飲んでいると疲れないしよく眠れて体調がよいと言われその後も続けていただいている。

膀胱炎で避けた方がよいもの

・アルコール
・人口甘味料(清涼飲料水などに含まれます)
・防腐剤、添加物、人口調味料(ラベルを確認しましょう)
・コーヒー、紅茶(デカフェも好ましくありません)
・唐辛子、香辛料
・炭酸水
・かんきつ類(オレンジ、ミカン、すだち、かぼすなど)
・果物ジュース(レモン,トマトジュース)
間質性膀胱炎や体質により必ずしも当てはまらないものもあります。ご相談ください。