婦人病 子宮内膜症・卵巣嚢腫

コロナの影響で世界的に「生理の貧困」が問題になっているそうです。
生理の貧困とは経済格差が広がり女性の必需品である生理用品が満足に購入できない状況を意味しています。
コロナ禍以降スコットランドでは生理用品の無償提供を定める法律が成立しました。
ニュージーランドでは学校で生理用品を無料提供することを決定しました。
日本では生理用品の税率軽減を求める署名運動が始まったそうです。

今更ですが生理とは妊娠に備え「子宮内膜」が約28日周期で分厚くなり、受精がなければ出血を伴って排出されるシステムです。
しかし月経がある動物は胎盤を持つ哺乳類のわずか2%で、人、チンパンジー、コウモリ、ネズミくらいしかいないそうです。(犬の出血は月経ではない)
そもそも月経で出血することは、血の匂いを嗅いだ外敵から攻撃されるという危険性があります。
それを上回る月経のメリットは何なのか色々な仮説(子宮内をきれいにする説、子宮内膜を再吸収するより捨てるほうが効率がよい説)がありました。
最近では子宮内膜が受精卵の状態を把握・見分ける能力があり不完全な受精卵が着床しないよう選別するためという「選別説」が有力になっています。

この月経が女性の身体にとって今問題になっています。
生理用品の進化は女性の社会進出をもたらしましたが、それにつれ出産の高齢化・少子化も進みました。
その結果として生涯の月経回数が激増しているのです。

戦前の日本では子供の数が7、8人は普通、授乳期間も長かった。
それが今は1人、多くても2人出産、断乳も早く、産まない選択をされる方も多くなりました。
これを一生の月経回数で比較すると50回が440回(おおよそ一人出産した方の10歳から48歳くらいまでの期間の回数)にまで増えているそうです。
この現象は人類の歴史においてここ最近のわずか50年ほどで発生しています。
さらにこの50年は「衣食住」も大幅に変化していて女性の身体が対応できていません。
月経の増加は色々な婦人病(子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣がん、乳がんなど)の発症リスクも高くします。





子宮内膜症

女性の7〜8人に1人にあると言われる子宮内膜症は子宮内膜が子宮以外の場所で増殖し出血や炎症を繰り返し起こしてしまう疾患で20〜30歳代の女性で多く発症します。
今世界では罹患している女性が1億9000万人、日本では200〜400万人がと言われています。
原因については諸説ありますが、歯周病の原因菌によるという研究が最新の情報です。
炎症で分泌される物質(プロスタグランジン)が子宮を強く収縮させることで激しい生理痛が起きます。
さらに患部に癒着が起きそれが引きつれることも痛みの原因です。
患部の場所により腰痛、排便痛、性交痛が生じます。
不妊の原因にもなります。
また卵巣に子宮内膜症ができる「卵巣チョコレート嚢胞」も不妊と関係があります。
子宮の内膜でなく筋層内にできると「子宮腺筋症」となります。
卵巣だけでなく腸や鼠径部、尿管、肺、脳など発症することもありそれぞれの患部の機能障害を起こします。
この子宮内膜症は生理のたびに進行する病気です。
こうした病気になる女性の多くは若い時から強い月経痛があるそうです。
日常生活に支障があるような症状(月経痛の他、腰痛、頭痛、いらいら、うつ、微熱、下痢、吐気、疲労感、食欲不振など)を「月経困難症」と呼びますが、これに該当する女性は将来的に子宮内膜症になる危険性が2.6倍になるそうです。
厚生省によりますと月経痛を訴える女性の25%に子宮内膜症や子宮腺筋症が見つかったとの事です。
女性の8割に「月経痛がある」という調査もありますので多くの方がドラッグストアで鎮痛剤を購入したり産婦人科を受診しているはずです。
最近では月経、妊娠、更年期など女性の健康にテクノロジーを用いたデバイスやアプリを利用する「フェムテック」(女性=Femalelと技術=Technology)がブームです。
その中には電流により痛みの神経伝達をストップさせる器械も登場しています。

西洋医学治療では鎮痛剤やピル、子宮内膜症では癒着を取り除く手術といった対症療法(病気の原因を取り除くのではなく症状を和らげたりなくしたりする治療法)になります。
ピルは生理痛が軽減しますが副作用が気になり、服用を中止すれば再発します。
また手術をしてもやはり時間経過とともに再発します。
子宮摘出手術は原因を取り除く原因療法ですが、患者さんの年齢や妊娠の問題を考慮する必要があります。

子宮内膜症と漢方薬

これに対して東洋医学は原因を取り除くことで治療を行います。
このような病気ではまず最初に「お血」、つまり古い血が留まる、血流が悪い、血のめぐりが悪いという状態を考えます。
さらにお血が起きた原因(気の巡り、水の停滞、冷え、胃腸の弱り、癒着など)や、場所(動脈・静脈・毛細血管)を考えていきます。
ピルのように中止して再発することもありませんし、こうした薬の副作用も少なくしてくれます。
もちろん西洋医学の治療と並行して行うこともできます。
昔、生理回数も少なく、甘いスイーツも冷えたジュースもなく、ミニスカートもない時代でも婦人病は存在し、これを「血の道症」と呼びました。
冷えないように紅花で染めた腰巻を巻き漢方薬(中将湯、実母散、命の母など)を飲んでいました。
本来、生理痛はないのが正常なのです。

お血とは

気血水の流れの中で特に「血=お血」の問題が婦人病では多くみられます。
例えば子宮内膜症は飛び散った子宮内膜が起こす出血と炎症です。
炎症が起きた組織では浮腫が起きて脈管を圧迫して血流不全が起こりそこに活性酸素が発生しています。
お血を解消することで活性酸素を消去すると同時に発生自体も抑え、さらに血流不全で酸欠と栄養不全で苦しむ組織へ酸素と栄養を供給します。
お血には動脈・静脈・毛細血管に応じ大黄、桂枝、当帰、川?の他色々な生薬を使い分けます。

●症例 38歳 子宮内膜症 (主訴)激しい生理痛、性交痛 
腰から下の強い冷え、むくみ、頭重、肩こり、背中のはり、PMS、不眠、寝汗、胃腸虚弱
鎮痛剤が生理のたび手放せない。
ピルを処方されたがもともと胃腸が弱いためか吐き気がひどく中止。
漢方薬2種類(胃腸と不眠)とお血を改善する生薬をお勧めした。
一か月半後、冷え・肩と背中・不眠・頭重がかなり改善。生理痛は1/3くらいになり喜ばれる。
鎮痛剤もいつのまにか飲まなくなった。
一年後には性交痛も消えその後は休薬する。
半年ほど経過したが症状は出ていない。



卵巣嚢腫

漫画「ブラックジャック」の登場人物で助手の女の子「ピノコ」。
ピノコという名前はピノキオが由来で、ブラック・ジャックがピノコの双子の姉の体の「こぶ」の中にある脳・手足・内臓等から組み立てました。
マンガの中のお話ではありますが医師でもある作者の手塚治虫は全く根拠のないことを書いていたわけではありません。
2018年のニュースによると実際に16歳の少女の卵巣に大きな腫瘍が発見されその中に髪の毛、頭蓋骨、そして脳の一部が入っていたそうです。
このケースでは脳がかなり発達していたそうです。
卵巣の中にある卵子が勝手に分裂を始め、皮膚組織、毛髮、脂肪、軟骨、骨などの組織を発生させるという事は実際にあります。
このタイプの腫瘍は皮膚とその付属器(毛髪、皮脂腺、汗腺)が発生することが多く皮様嚢腫(ひようのうしゅ)と呼びます。
皮様嚢腫の他に漿液性嚢腫、粘液性嚢腫、子宮内膜症性嚢腫がありますが、これらは全て良性であり悪性の代表は「卵巣がん」です。
ちなみに卵巣の腫瘍の9割が良性、残りの1割が悪性です。
良性と悪性の区別が難しいケースもあり、その中間に位置する境界悪性腫瘍もあります。

そもそも卵巣は体のなかでもっとも腫瘍ができやすい臓器です。
しかし卵巣は肝臓と並んで「沈黙の臓器」と呼ばれ腫瘍ができてもなかなか症状が現れにくく早期の段階ではほとんど自覚症状はありません。
腫瘍がわかっても早期なら定期検査のみで治療を行わないケースがほとんどです。
しかし時間とともに大きくなると下腹部の痛みや張り、性交痛、さらに増大するとしこりを触れるようになったり腹囲が大きくなったりします。
大きくなったまま放置すると破裂したり、卵巣の付け根が捻れ(茎捻転)激痛が生じこともあるため手術による切除が行われます。

卵巣はホルモンを分泌して生理周期毎に卵子を排卵したり、思春期から更年期にかけて女性の身体に影響を与えています。
卵巣が分泌するのホルモンは「エストロゲン」と「プロゲステロン」です。
もちろん他にも様々なホルモンが関与していますがこのエストロゲンとプロゲステロンの2つのホルモンがきちんと働くことで生理、妊娠、出産の準備を整えているのです。

エストロゲンは脂肪蓄積作用があり女性らしい丸みを帯びた体型を作り恋をするとたくさん分泌され肌がつやつやとします。
女性らしい体を作る、子宮内膜を厚くする、精神を安定させる、骨や皮膚、脳の動きにも関わっています。
逆に少なければ妊娠しにくい、うつ、不眠、骨粗鬆症、関節痛、しみ、たるみ、認知症の原因になります。
逆にやせすぎて皮下脂肪が少なければエストロゲンは分泌されません。(脂肪組織から分泌されるレプチンというホルモンはエストロゲンの産生を促す)
極端なダイエットで月経不順、無月経になるのはこのためです。
エストロゲンが正常に分泌されているか、不足しているかは基礎体温をつけるとわかりやすいです。
きれいに二相性になっているなら心配はありませんが、特に高温期が短い、低い、ないとなると問題です。

エストロゲンは卵巣にある卵胞から分泌されますが、50代になりほとんどの卵胞がなくなり更年期をむかえます。
同じく更年期障害もやせていると症状が強くなる可能性が高くなります。
更年期でよくみられる顔のほてり(ホットフラッシュ)はエストロゲンの急激な低下で脳内の活性酸素が増加するためこれを消去する物質「ノルエピネフリン」が分泌されます。
この物質がホットフラッシュを起こすホルモンをさらに増やすことで起こります。

ところが閉経後でもまれにエストロゲンが減らないこともあります。
卵巣腫瘍の中の「エストロゲン産生腫瘍」が原因です。
ホルモンを作る臓器に腫瘍ができ,そのホルモンを過剰に作り出すようになる場合をホルモン産生腫瘍と呼びます。
各ホルモンの産生細胞が腫瘍化することによって腫瘍自体が性ホルモンを産生し続けるという特徴があります。

がんについてはエストロゲンが多くなりすぎても(ほとんどはホルモン剤投与)発症リスクが高まると言われています。
また「子宮筋腫」「乳腺症」「子宮内膜症」「乳がん」「子宮頚がん」などのリスクも上昇します。
卵巣がんは出産していない方や閉経が遅かった方など排卵した回数が多いほどリスクが高くなります。

良性腫瘍の中の子宮内膜症性嚢腫はその名の通り子宮内膜症が原因です。(子宮内膜症の原因は不明)
卵巣に子宮内膜症ができると卵巣内にチョコレート色の古い血液のような成分がたまった状態になります。
これは「チョコレート嚢腫」と呼ばれ、ここから卵巣がんが発生することもあります。
チョコレート嚢胞の大きさが40歳以上で10cm以上、あるいはチョコレート嚢胞が急速に増大しているとなると精密検査や手術が必要になります。
最近では腫瘍、子宮内膜症、チョコレート嚢腫の全てにおいて増加の傾向があり、遺伝・喫煙・食事の欧米化に加えて女性の晩婚化、出産回数の減少、不妊治療による排卵回数の増加が原因に挙げられています。

腫瘍、子宮内膜症、チョコレート嚢腫になった時は症状を抑える治療をすることになります。
この時西洋医学的な治療はホルモン剤や手術となります。
熱が出れば解熱剤、悪い部分は切り取るという考え方です。
しかし東洋医学的な考えは体全体をみてバランスの崩れているところや流れの悪くなっている場所を見極めて正常にすることで自然な回復をさせることができます。
適切な漢方薬を使用され生理不順、月経痛、冷え、のぼせ、肩こり、頭痛などの日常的な女性の不調を日頃からできるだけ改善しておくことです。
そうすることで不妊や更年期、さらに卵巣がんのリスクは低くなります。
特に卵巣がんは最近40〜60代を中心に多くなっています。
こうした方がある日検査で突然腫瘍や卵巣がんが発見されびっくりします。
ご相談をいただいてお話しを伺うと若いころに女性特有の不調や子宮内膜症、チョコレート嚢腫を持っていたという確率は高いです。
更年期を過ぎたとしてもやはりなんらかの不調があることが多いはずですからその治療をしておくことは決して遅くありません。

エストロゲン

エストロゲンの話を聞いてサプリでの補給を想像される方もおられるのではないでしょうか。
エストロゲンは体によいからそれを補給しようとするのもある意味西洋医学的な考えです。
体の中には100種類以上のホルモンがあり、これからもまだ発見されると考えられています。
血液の中のホルモンは50mプールの水の中にスプーンで1杯分くらいごく微量です。
特定のホルモンをサプリで摂るのは意味がありません。
病院のホルモン剤もできれば使用しないことが望ましいのです。
ホルモンは多すぎても少なすぎてもいけません。

例えばエストロゲンを補うのではなく効率よく働かせるという考え方はどうでしょうか。
エストロゲンは細胞内で受容体と結合しDNAに連結することで効果を発揮します。
このときエストロゲン=受容体と受容体=DNAの連結をさせるのが「亜鉛」です。
亜鉛が不足していると逆にエストロゲンの指令は伝わりにくくなります。
閉経後の骨粗鬆症にも亜鉛は骨細胞形成を促進し、骨細胞破壊を防ぎます。

もちろんエストロゲンの問題だけに限りません。
ご相談される方は気、血、水の停滞で流れがスムースになっていないことがほとんどです。
体の中の働きがスムースに行われればすべてのホルモンもうまく回っていきます。
東洋医学ではまず体全体の中で回らない場所と原因を探ります。
適切な漢方薬によりそれを合わせて解決していくことで日常的な女性特有の不調がちゃんと解消されていきます。