骨粗鬆症

2011年に中央自動車道でトンネルの崩落事故が起きました。
この事故で道路インフラの老朽化が大きくクローズアップされましたが、まだ必要な補修が行われていないトンネルや橋は全国で約3万7000か所あるそうです。
事故原因は当初ボルトの腐食といわれていましたがコンクリートの品質の悪さが原因という意見が多いようです。

骨はよく鉄筋コンクリートにたとえられます。(コラーゲン線維=鉄筋、カルシウム=コンクリート)
骨という鉄筋コンクリートは1度作られたら完成ではなく常に破壊と生成が行われています。
その骨も経年劣化で「骨粗鬆症」が起こります。

ある日56歳のA子さんは骨密度を測定してもらいました。
背骨と大腿骨を測定する方法で76%(YAM)という低い数値でした。
骨折歴はなくお医者さんも薬は出さずに少し様子を見ましょうということでした。
亡くなったお母様が晩年転倒して骨折したこともあり、A子さんは心配で「カルシウム+コラーゲン」と「破骨細胞を抑える」というサプリを飲み始めることにしました。
高血圧と逆流性食道炎があり病院の薬も飲んでいます。
以前は犬の散歩をしていましたがその犬も高齢で亡くなり、最近はたまにお友達とのランチで外出するくらいです。
夜はご主人様と二人だけなので冷凍食品が多くなりました。
コーヒーが好きで豆を挽いて5-6杯飲みます。

「サプリ」、「生活」、「病院の薬」からA子さんの分析してみましょう。
まず骨粗しょう症と言えば「骨密度」ですが、実は骨の強さである「骨強度」とはイコールではなく意外と骨密度が高くても骨折する人もいます。
骨強度=骨密度+骨質で骨密度7割、骨質3割と言われています。
「骨質」とは骨の質であり、「コラーゲン」が関係します。
コラーゲンが老化して錆び強度が落ちると、そこから骨に小さなひびができ骨折につながります。
A子さんはカルシウムとコラーゲンが両方含まれるサプリを選びました。
しかしカルシウムのサプリが高齢者の脊椎圧迫骨折や股関節骨折を予防できるエビデンスはないという意見が多数のようです。
コラーゲンについては厚生労働省の「統合医療情報発信サイト」で検索すると「消化酵素によってアミノ酸やペプチド に分解されてしまうので意味がない。」とされています。
骨代謝マーカーの観察でもコラーゲン摂取は骨再生に影響を与えないという研究もあるようです。

では「破骨細胞の働きを抑えるサプリ」はどうでしょう。
骨を壊すのは「破骨細胞」、骨をつくるのは「骨芽細胞」です。
破骨細胞は塩酸を分泌しカルシウムもコラーゲン線維も分解し、その後骨芽細胞が新しい骨を作るというわけです。
そして病院で処方される薬にも破骨細胞を抑えるものがあります。(ビスホスホネート系製剤)
この薬はもともと炭酸カルシウムの沈殿を抑制するので水垢防止剤として使われていました。
服用すると骨(ハイドロキシアパタイト)に結合し破骨細胞が骨を溶かす酸の分泌を邪魔したり、破骨細胞の死(アポトーシス)を誘導します。

骨粗鬆症の薬一覧

骨が壊されるのを抑える薬
ビスフォスフォネート製剤 破骨細胞に作用し骨吸収を抑えることで骨密度を増やします。
経口剤と注射剤があります。
選択的エストロゲン
受容体モジュレーター
(SERM サーム)
女性ホルモンのエストロゲンと似た作用で骨密度を増加させます。
抗ランクル抗体薬 骨を壊す破骨細胞に働きかけ、骨密度(骨量)を高めて骨折を抑えます。
骨が作られるのを促す薬
副甲状腺ホルモン 骨芽細胞を活性化させます。骨折リスクが高い患者さんに適します。
骨に足りない栄養素を補う薬
カルシウム製剤 骨をつくる主要な成分のカルシウムを補います。
活性型ビタミンD3製剤 カルシウムの腸管からの吸収を増やします。
ビタミンK2製剤 ビタミンKの摂取不足を補うことで骨形成を促進します。

※この他には閉経期の女性へ女性ホルモン製剤(エストロゲン)、強い鎮痛作用で骨粗しょう症に伴う背中や腰の痛みに用いられるカルシトニン製剤があります。

ビスホスホネート系製剤は骨折を有意に抑えるというデータがある一方で、(まれに起こる)副作用として「食道潰瘍」、「顎の骨の壊死」、「非定型骨折」があります。
これは破骨細胞を抑えると骨の新陳代謝が低下するためです。
実は骨芽細胞と破骨細胞の間では(細胞外小胞を通じて)コミュニケーションがとられバランスをとっていますので破骨細胞が制御されると骨芽細胞も働かなくなります。
ビスホスホネート系製剤を服用している方が歯のインプラント治療を避けた方がよいのは骨の再生を妨げるからです。
非定型骨折とは外部からの衝撃がないのに骨折するということです。(定型骨折とは外傷による骨折)
皮肉にも骨折予防で骨折という副作用も新陳代謝が低下した結果で、古い骨が残り続けそこに小さなヒビ(マイクロダメージ)が生じてダメージが蓄積して骨が脆くなるからです。
骨密度が増加したのに骨の形成は促進されず骨強度が改善していない状態です。
このためビスホスホネートは長期投与をせずある程度の期間までにとどめておくことが提唱されています。

では逆に骨を作るのを助ける方法はどうでしょうか。
実際に骨粗鬆症の薬には骨をこわすのを抑える薬(ビスホスホネート、エストロゲン・カルシトニン、SERM、デノスマブ)だけでなく、骨をつくるのを助ける薬(カルシウム、ビタミンD3・K2、副甲状腺ホルモン)があります。(両方の効果を持つ薬もあります。)

コラーゲンのタンパク質、骨の成分のカルシウム、そのカルシウムの吸収を助けるビタミンD、カルシウムの骨への沈着に必要なビタミンK、その他葉酸やビタミンBなども骨に必要です。
こうした栄養素をサプリで補うことも悪くはありませんが、ちゃんとした食事をとられているなら必須とも言えません。
骨粗鬆症における薬物治療でもカルシウム、ビタミンD3・K2製剤はやはり補助的な位置づけです。

むしろサプリよりも生活面で、ランチくらいしか外出しないところは注意が必要です。
それはビタミンDの問題です。
A子さんの世代はすでに若いころから日焼け止めを塗るのが普通になっいて十分に日光を浴びてこなかった女性は多いのです。
加えてサプリや薬より、日光を浴びて体内で活性化されたビタミンDのほうが優秀です。
またサプリや薬での摂取はビタミンDが脂溶性であるため副作用のリスクがあります。
ちなみに室内でガラス超しに日光を浴びても活性化ビタミンDは作られません。

A子さんについてもう一つの気がかりは病院の薬、逆流性食道炎の薬です。
この薬(プロトンポンプ阻害薬=PPI)は胃酸の分泌を低下させるためカルシウムやタンパク質(≒コラーゲン)の吸収も阻害します。
プロトンポンプとは胃の中にH+イオンを汲み出すポンプを意味し、これによる胃酸で食べ物を消化します。
このプロトンポンプは胃壁細胞だけでなく破骨細胞にもあり、同じ仕組みで骨を溶かしています。
これがプロトンポンプ阻害薬で阻害されて前述の骨の新陳代謝低下が結果的に骨硬化に傾きます。
この薬を日常的に2年以上使用している閉経女性は、そうでない閉経女性に比べて股関節骨折のリスクが35%高く、さらに喫煙がこれに加わるとリスクが50%を超えることが米国の研究で明らかになっていて、FDAもプロトンポンプ阻害薬による骨折リスクを警告しています。
この他にはステロイドの長期使用、ホルモン剤、透析も骨粗鬆症(続発性)に注意が必要です。

生活面の食事については冷凍食品に含まれるリン酸系の添加物が体内のミネラルを減らしますので注意しましょう。
コーヒーは利尿作用があり尿と一緒にカルシウムが出てしまうという説があります。
A子さんは逆流性食道炎がありその意味でもコーヒーは控えた方がよいでしょう。
逆流性食道炎に対してはプロトンポンプ阻害薬以外に色々な方法がありますからご相談ください。

ビタミンD

ビタミンDは“骨の代謝”に関係する成分で、植物由来のものを『ビタミンD2』、動物由来のものを『ビタミンD3』といい、ビタミンD3は日光(紫外線)を浴びることでも生成されます。
ビタミンDはコロナでもたいへん注目されましたが、多くの急性・慢性疾患時で不足を指摘する報告があります。
高齢者も年を重ねるごとに外出を避ける傾向が強くなり、紫外線を浴びる機会が減ることから、ビタミンD不足になり骨粗鬆症につながることが考えられます。
食事やサプリメントから摂取したビタミンDと比較して、日光を浴びた皮膚で生成されたビタミンDは体内に2〜3倍長く留まります。
さらにこのビタミンD3は、その100%がビタミンD結合タンパク質と結合しますが、食事やサプリメントから摂取されたビタミンD3は約60%しか結合せず、残りは除去されてしまいます。
日光を浴びることで皮膚で合成されるビタミンDの生成量に比べると、食事から摂取するビタミンD量の割合は小さいこともポイントです。
若い方も含め現代人は毎日の仕事に追われなかなか日光に当たりません。
コウケントーは家庭でできる日光浴です。

腎と骨

病気に対する西洋医学的な考え方は、不足しているもの(カルシウムなど)を補い、直接の原因(破骨細胞)を叩こうとします。
しかし破骨細胞と骨芽細胞の関係のように体内では複雑なコミュニケーションが存在しています。
東洋医学では骨は「腎」という臓が関係すると考えています。
腎は骨をつかさどり内分泌系(ホルモン)機能にも関係します。
閉経して骨が弱るのは腎の弱りであり、遅い初潮や早い閉経も骨粗鬆症のリスク因子です。
腎が老化すると初期は「出すべきものが出せなくなる」ことから余分な熱が上半身にこもり,歯周病、口渇、口内炎、肩こり、頭痛が出るようになります。
さらに骨密度が減って歯槽骨ももろくなり歯周病も悪化していきます。もっと進行すると体が冷えてきます。
腎の働きを活性化させると本来の骨のサイクルを正常化させる方向へ導きます。

骨粗鬆症になりやすい疾患

糖尿病、腎機能障害などの生活習慣病は特に骨粗鬆症を進行させます。
これは活性酸素が増えることが原因です。
実は閉経も活性酸素を消してくれていたエストロゲンがなくなるという側面があります。
活性酸素は直接的に骨芽細胞の細胞死(アポトーシス)を促進, 逆に破骨細胞機能を増強するします。
また終末糖化産物(AGEs)の形成促進を介して間接的に骨量と骨質へマイナス作用をします。

それぞれのケースに応じた対応が必要です。ご相談ください。