2008年にマダガスカル沖でイルカ75頭が大量死する事件が起こりました。
国際捕鯨委員会(IWC)の発表によりますと原因は石油探査目的の海洋マッピングで使う高周波ソナーだったそうです。
近年はソナーだけでなく船舶の運航や洋上風力発電などで海の中は音があふれているそうです。
こうした騒音でイルカやクジラは耳が聞こえなくなったり方角がわからなくなり浅瀬へと迷い込んでしまうことがあるそうです。
言うまでもなく生き物にとって音を聞くことは危険から身を守ったりコミュニケーションをとるためとても重要なものです。

耳鳴りと難聴

耳の奥(内耳)に、カタツムリの形をした蝸牛(かぎゅう)という器官があります。
蝸牛には細い毛が生えた感覚細胞(有毛細胞)があり音の振動を電気信号に変換して脳に送っています。
この有毛細胞の老化により聞こえにくくなるのが高齢者の難聴(老人性難聴)です。
難聴は耳鳴り方の9割近くにもみられ深い関係があります。
難聴で聞こえにくくなると音を拾おうとして脳は過剰興奮します。
このため普段なら不要な音まで脳が認識するようになり耳鳴りが起きると考えられています。
実は音を完全にさえぎった部屋では健常な方でも七割の人が耳鳴りを感じるそうです。
それは有毛細胞が通常時もわずかに電気信号を発しているためで、この信号を感じるかどうかは脳の興奮レベルによるというわけです。

脳の「楔前部(けつぜんぶ)」と呼ばれる場所は「感覚情報を基にした自身の身体のマップ」、つまり五感のデータ処理をして自分がどんな体制や状態なのかを分析するところです。
耳鳴りのない人や、耳鳴りがあっても苦にならない人はこの部分がほとんど働いておらず、逆に重い耳鳴りの人は活発だったという研究があります。

「突発性難聴」という病気は中高年に多く再発はしませんが耳鳴りが後遺症として残ることが多いです。
「急性」ではなく「突発性」、いきなり発生しますからある日ある時突然片方の耳(ごくまれに両方の耳)が全く聞こえなくなるか聞こえにくくなります。
気づくとTVや電話の音が聞こえない、朝目覚めたら聞こえなくなっていた、さらに耳が詰まった感じや耳鳴り、めまい、吐き気などを伴う場合もあります。
この病気も「有毛細胞」が傷ついたり壊れてしまいます。
「有毛細胞」が障害を受けてから10日から2週間を経過すると神経の変性が起こってしまいもとに戻らないので聴力も戻らない。
一日でも早くステロイドの内服か点滴の治療を受けないと、時間経過すればするほど後遺症の確立が高くなるというのが通説です。
ただこの疾患の原因も解明されておらず、ステロイド療法もエビデンスがはっきりしていません。

耳鳴り・難聴の治療にはどんなものがあるでしょうか。
有毛細胞に障害が起きてしまうと現時点では「人口内耳」か、ips細胞などの新しい研究を待つしかありません。
通常の耳鳴りなら「補聴器」で、前述の「耳鳴りは脳から起きる」という考えから、音を聞こえるようにすることで脳の興奮を鎮めるという方法です。
難聴を伴わない耳鳴りの場合は、小さな音を発生させることで気にならないようにする器械(サウンドジェネレーター)もあります。
補聴器にサウンドジェネレーター機能がついているものもあり、これらを使用した治療を音響療法(TRT)と言います。
例えば楽天市場で「耳鳴り」を検索すると9万件以上の商品がヒットしますが健康食品、医薬品、書籍と並び補聴器もたくさん出てきます。
音響療法(医師の指導のもとが望ましい)は日本聴覚医学会の「耳鳴り診療ガイドライン」でも推奨されています。(推奨度A)

耳鳴り診療ガイドラインは他の治療にも言及しています。
薬であれば内耳の血流改善薬(アデホス、カルナクリンなど)やリンパ液の流れを改善する利尿薬(イソバイド)、ビタミンB12。
血流改善薬とビタミンB12は効果があるかもしれないといった「弱めの推奨度」となっています。

耳鳴りから不安や恐怖を感じることで「うつ」になることがあります。
こうした場合は安定剤(デパス、リーゼ、ソラナックス)や不眠に睡眠剤。
さらに脳が過敏な状態を落ち着かせるためのセロトニンを増やす抗うつ剤(SS(N)RI)の処方。
鍼治療やレーザー治療は弱く提案、または行わないことを推奨するとなっています。
突発性難聴の治療は、ステロイド以外の補助として血管拡張薬(プロスタグランジンE1製剤)やビタミンB12製剤、代謝促進薬(ATP製剤)などがあります。
しかしステロイド以外は自然治癒と比べて処方しても変わりがないという意見もあります。

では検索ヒットする健康食品(蜂の子、イチョウ葉)、医薬品(奥●脳●経薬、苓桂朮甘湯、当帰芍薬散、八味地黄丸、●上錠、命●母、腎●●)はどうでしょうか。
「効能効果」に耳鳴りが記載されている医薬品・漢方薬を「耳鳴り効く」と推奨するネットや新聞広告もよく目にします。
しかしこうした漢方薬では宣伝文句を鵜呑みにしないことをお勧めします。
なぜなら患者さんそれぞれの体質に合う漢方薬の選定が大事で、その際耳鳴りの「効能がない」漢方薬が当てはまる患者さんも存在します。


中高年に限らず耳鳴りの原因はとても多岐にわたります。(外耳炎、中耳炎、メニエール病、老化、高血圧、脳腫瘍、脳梗塞、大音量、ストレス他)
当然患者様の訴えられる症状も様々です。
ふらつき、ほてり、のぼせ、めまい、口渇、足腰がだるい、冷え、いらいら、頭痛、肩首こり、不眠、手足のけいれん、その他様々です。
それらの症状を起こしている原因を探り矯正することで耳鳴り・難聴(突発性難聴の後遺症も含む)を治していきます。
東洋医学はご相談をいただいたら上記のような周辺症状を伺って患者様に合う処方を見つける作業を開始します。
周辺症状がなくなりQOLが上がるメリットもあり、これは補助器やステロイドにはないものです。
実際医療現場では意外に漢方薬は処方されています。
仮に有毛細胞の障害で耳鳴りが100%元に戻らなくともこのメリットを考えれば漢方薬を服用される価値はあると思います。

漢方薬

耳鳴りの効能効果が認められた処方の一例です。

●滋腎通耳湯(一か月分10500円税別)

この処方の効能効果は「体力虚弱なものの次の諸症 耳鳴り、聴力低下、めまい」です。
聴力低下の効能がある処方は珍しく、聴力の衰え、耳が聞こえにくい、耳鳴りが続く、時にめまいを訴えるなどの高齢者に用いられることが多い処方です。
漢方では腎(生命活動の原動力を供給する臓器、成長・発育・生殖などに関わる)の機能が衰える(腎虚)と老化が早まり、老化現象としての耳鳴り、聴力低下などが発生すると考えます。
特に「耳」は、「腎」と関係が深いとされています。
またこのタイプの方は、老化以外に腎を疲れさせる生活をしている方に多いです。
若い方でも性生活の不節制、夜型の生活、睡眠不足、薄着や冷たいものの摂り過ぎで体を冷やす方が当てはまります。 
またストレスが多く神経をすり減らす生活をしている方の耳鳴りにも応用されます。
腎虚に伴う耳鳴りは、蝉の鳴くような「ジージー」という音が多いようです。
また「キーンキーン」というような高音性の耳鳴りは精神的な原因や老化性で起こることが多いようです。
滋腎通耳湯はどちらにも使えます。
その方名に腎を滋養し(腎の働きを高める)、耳の通りをよくするという薬能が込められています。
周辺症状としては生活不規則、飲酒で悪化、性生活の不節制、高齢、皮膚が黒い、イライラ、不安、まぶたの痙攣などがあります。
(注)この処方が全ての耳鳴りに合うとは限りませんので直接ご相談ください。

症例

3 漢方薬の突発性難聴症例(62歳男性)

半年前突然めまいとともに片方の耳が聞こえなくなり病院で突発性難聴と診断されました。
蝉の鳴くような耳鳴りがずっと続きいらいら、割れるような頭痛、目も真っ赤に充血するようになりました。
普段から脂っこい料理とお酒が好きで肥満気味、舌には黄色く厚い苔がべったりとついていました。
漢方薬二種類を処方して半年後には耳鳴りがほとんど気にならなくなりその後聴力も回復、さらに1年後症状がすっかり消失しました。