認知症

たばこを1本吸うと寿命が○分短くなると言う説があります。
喫煙者の平均寿命は男性で8年女性で10年短かいという研究もあるそうです。
一方で長生きしている人の中に結構喫煙者もおられます。
タバコに含まれるニコチンは脳の神経伝達物質(アセチルコリン)を刺激することで脳をシャキッとさせているそうです。
喫煙を続けて80歳になっても肺がんにならなかったのならばその後はがんになる心配よりも脳が元気になるメリットのほうが大きいという意見もあります。
9/21は「世界アルツハイマー・デー」です。
日本でも認知症患者数はどんどん増えており医療現場では有効な認知症の薬が切望されていました。
厚生労働省は2023/9/25にアルツハイマー病の新治療薬(レカネマブ)を承認しました。
米食品医薬品局(FDA)では日本に先立ちレカネマブを「迅速承認」、また同会社が申請していた二つ目のアルツハイマー病治療薬(アデュヘルム)も続けて承認しました。
このアデュヘルム承認の際には反対意見を示していた諮問委員会の2人の委員が抗議のために辞任したことがニュースになりました。
また欧州では承認を見送っています。
これらの薬(レカネマブ、アデュヘルム)は夫々アルツハイマー病を起こす原因物質(アミロイドβ)を取り除くように設計されています。
しかしそもそもアミロイドβを除くことでどれだけ効果があるかについては異論もあります。
実際これらの薬はアルツハイマー病の発症初期か軽度の段階において使用が限られ、進行を7カ月半遅らせるというものです。
また脳の出血やむくみという副作用があり、これはアミロイドβは脳だけでなく脳周辺の血管壁にもたまるためこれを除去することで起きる副作用です。
さらに投与前後の検査負担や、価格が高額(アメリカでは390万円)であることも悩ましい点です。
米国老年医学会では「作用と副作用を定期的に評価せずにアルツハイマー型認知症治療薬を処方すべきではない」という警告を出しています。

すでによく使われている認知症の薬は1999年に承認された「アリセプト」です。
この系統の薬(コリンエステラーゼ阻害薬)の副作用には尿失禁があり、尿失禁の薬(抗コリン薬)が処方されやすくなります。
さらに失神やけいれんの副作用に対して抗てんかん薬が処方、また別の副作用として不眠がありその結果睡眠薬が処方されることでふらついて転倒し鎮痛剤といったパターンで薬がどんどん増えてしまうことがあります。
このように服用している薬による副作用から新たな病状が生じ、それに対して新たな処方が増える連鎖を「処方カスケード」と言います。
カスケードとは「小さな連なる滝」を意味しており、薬の対処の連鎖が小さな連なる滝のように連なることを意味します。
よく似た言葉で「ポリファーマシー」もあり必要以上の薬剤が投与されている、または不必要な薬剤が処方されている状態をあらわします。
処方カスケードからポリファーマシーが発生するわけです。
最近は医薬品の適正使用がテーマとなり医療機関・薬局双方でポリファーマシー解消に向けた努力が強化されてきています。



ポリファーマシー問題の根本には「一つの症状に一つの薬」という西洋的な考えがあります。
この考え方は一概に否定はできませんが、高齢者の認知症についてはイコール脳だけではなく全身病という視点も必要です。
認知症は現時点ではっきりと原因が解明されていませんが、糖尿や睡眠、肥満ややせ、筋力低下などとの関連が指摘されています。

例えば糖尿病はアルツハイマー病の発症リスクを2倍に増加させることが明らかとなっています。
糖尿病では血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが鈍くなるためインスリンの分泌は増えますが、逆に脳のインスリン濃度は低くなります。
実はインスリンを分解する酵素がアミロイドβも分解してくれるのですが、体のほうのインスリン分解に追われて脳に手が回らなくなるのです。
また糖尿病では脳内に活性酸素が異常に多量発生することも問題です。

睡眠の質が悪いことも問題です。
本来アミロイドβは眠っているときは脳が少し縮んで隙間を作り日常的に脳から血管へ排泄されています。
睡眠が十分でないと活性酸素が発生してこの排出口を破壊します。
さらにはアミロイドβが活性酸素により凝集し、凝集アミロイドβがさらに活性酸素を発生させるという悪循環が起きます。
そして過剰な活性酸素により神経細胞が傷つけられしまいます。
また脳神経細胞の中にある「微小管」の通り道が活性酸素が影響し塞がれることでミトコンドリアと栄養素が運べなくなることでも神経細胞が破壊されアルツハイマーの危険性が高まります。

筋力低下(サルコペニア)は食事量や活動の低下につながります。
その結果、体を支えるバランス能力に影響が出て歩行時に転倒し骨折して(フレイル)寝たきり・要介護というパターンに陥ります。
こうなると当然認知機能にも悪い影響が出てきます。

東洋医学では病気を体の一部分ではなく全体としてとらえます。
「腎は骨を主り、髄を生じ、脳に通じる」と言い脳は「腎」のグループに属します。
「腎」とは,成長.発育.生殖をつかさどり,骨をつかさどり,髄を生じ,脳に通じる、西洋医学的に言えば内分泌系,泌尿・生殖器系,中枢神経系、免疫機能などを指します。
ですから腎が弱れば足腰が衰え同時に脳の認知機能に影響が出ることも筋が通ります。
全身にわたる多くの症状を改善するのは漢方薬の得意分野です。
睡眠・糖尿、アリセプトなど薬の副作用からくる諸症状にも穏やかに効果を発揮することで不要な処方カスケードを防ぐことにもつながります。

漢方薬は服用したから進行した認知症が治ってしまうというような夢の薬ではありませんがそれぞれの患者さんの訴える多様な症状に対応ができます。
漢方薬の場合は「認知症=一つの薬」ではありません。
例えば妄想、徘徊、興奮、イライラ、不安、鬱、不眠に対して、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬などの処方が増えるのことは脳にとって悪い影響を与えかねず、漢方薬を試してみる価値はあります。
こうした周辺症状を漢方薬で改善して体調がよくなることで元気になると笑顔も見られ、積極的にしゃべられるようになったりと別人のようになられることがあります。

・認知症=当帰芍薬散?

20年程前、当帰芍薬散が認知症に効果があったという報告がありました。
当帰芍薬散はアセチルコリン合成酵素の活性をたかめたり, アセチルコリンニューロン機能を改善すると言う研究もあります。
しかし漢方薬は個別の患者さんの体質を判断する必要がありすべての認知症の患者さんにのべつまくなしに投与するものではありません。